ブログ blog

« 「ランドセル」 | メイン | 「家庭菜園パートⅡ」 »

Last message in your life
2016.06.17

Last message in your life


こんにちは。
(株)モリ・エンタープライズ代表の森です。

ここのところ世間で紛糾をよんでいた舛添都知事、
極めて不名誉なカタチで辞職してしまいましたね。
私が大学生の頃、「朝まで生テレビ」という討論番組に
大学教授時代の彼がパネリストとしてよく出演していました。
弁舌鮮やかに論敵をバッサバッサと斬りまくる姿を見ていて
あ~こんな人が政治家になったら頼もしいなぁ、
なんて当時思っていた自分としては、なんだかとても残念に思えます。
とかく政治家は、金がらみの不祥事で去っていくケースが多いですね。
富や権力というものは、かくも人の生き方を変えてしまうものなのでしょうか・・・

さて、そんな話にもちょっと関連しているのですが、
最近読んで、感銘を受けた本を一冊ご紹介したいと思います。
『課長島耕作』などの作品で知られる漫画家弘兼憲史氏の手による
『いかに死んでみせるか』という書籍です。

Photo

タイトルだけ見ると、ん?死に方の手引書ですかぁ~、睡眠薬がいいか、いっそ飛び降りか、
なんて誤解しそうですが、内容はまったくそんな不謹慎なものではなく(笑)、
歴史上の人物から著名人、芸能人、市井の人まで死に直面したさまざまな人々が残した
遺書や遺言、末期のセリフなどの言葉を集めた本なのです。
この世の去り際に、人はどんな言葉を残したのか、
泣ける言葉、沁みるセリフ、ちょっと笑える話まで
その人を象徴するエピソードとともにたくさん綴られています。

なかでも私が最も感銘した言葉をひとつご紹介します。
それは、あのスティーブ・ジョブズ氏が遺した遺言とも言える文章です。
アップル社を創業し、世界でも指折りの成功者であると同時に、
iPhoneやiPad、iTuneなどの斬新なプロダクツを次々と世に送りだし、
私たちのライフスタイルを激変させた革命児ともいえる存在。
2011年に癌のため56歳の若さで亡くなってしまいましたが、
ビジネスの頂点を極めたかに思える彼が死を察し
自分の人生を振り返り、到達した思いを象徴する一言が、次のようなものでした。

「死ぬ時に富は持っていけないが、愛は持っていける。」

最初は、ちょっと意外に感じました。
あのジョブズ氏のことですから、もっとトンがった言葉を残しそうなものだけど、と。
エキセントリックな彼にしては、優しい、と言おうか、スウィートと言おうか・・・
しかし、彼の場合、突然死ではなく、徐々に病に蝕まれていったという状況でしたので、
いろいろと考える時間があったからこそ、このシンプルな思いに行き着いたようです。
この言葉に至るまでの少し長い文章として残っていますので、以下要約して記します。

「私はビジネスの世界では、成功の頂点を極めたと言えるかもしれない。
たしかに、他の人からは私の歩んできたこれまでの人生は、
典型的な成功の縮図に見えるに違いない。
しかし、こうして人生の終わりになってみれば、私がこれまで積み上げてきた多額の富など
私の人生のなかの単なる一つの事象でしかない。
こうして病室のベッドに横たわっていると、これまでの人生のさまざまなシーンが次々と甦り、
そのたびに私がこれまで誰よりもプライドを持っていた地位とか名誉や富は、
迫りくる死を目前にして色褪せていき、今やほとんど何も意味をなさなくなってきている。」

偉大な業績を残し、世界的な名声や尊敬、巨万の富を集めた彼ですから、
自分の人生に対して大いなる達成感に満ちていたでは、と思っていました。
私の浅はかな考えとは裏腹に、彼にとってそんなものは
人生のなかの単なる一つの事象にしか過ぎず、何の意味もなさない、とまで言い切っています。
以下、続きます。

「私は、今思う。 私が勝ち取った多額の富は、私が死ぬ時に持っていけないが、
愛は持っていける。
私が今、死とともに持っていけるものは、愛に溢れた思い出だけだ。
これこそが、本当の豊かさであり、いつもあなたに生きる力を与え、
あなたの道を照らしてくれるものなのだ、
愛ある思い出をつくりなさい。
誰もがいつか、自分の人生の幕を下ろす日が必ずやってくる。
その日のために、今からでも遅くない。
あなたの家族に愛情を注いであげよう。
あなたのパートナーのためにも、友人のためにも。
そして、最後にあなたに。
自分を大切に。他人にやさしく。」

彼の遺産は、なんとまぁ、約8600億円!だったといいます。
それだけお金があっても、不治の病の前では何の役にも立たない。
どれだけ権力があっても、決められた運命からは逃れられない。
せいぜい庶民より、いくらか上等な病室のベッドが与えられるくらいでしょう。
そのベッドにずっと横たわりながら、召されるまでのいくばくかの時間、
頭の中では、これまで生きてきた長い長い日々が走馬灯のように巡りては巡っている。
想像してみてください。
その膨大なシーンのなかに、誰かに深く愛された記憶、
誰かを強く愛した思い出がもし見つからなかったなら。
富や権力に執着している自分の姿しか映し出されなかったなら。
そして、ベッドの側にいつもいてくれるのは、病院に雇われた看護士だけだったなら。
自分がこれまで積み重ねてきた何十年という時間は、なんて乾いたものだったんだろうか・・・
人生の最後の最後に、そんな寂寞の思いに打ちひしがれてしまうでしょう。

お金なんかなくても、ビジネスでたいした成功ができなかったとしても、
残された時間を、愛してくれる人や愛してやまない家族に見守られ、
愛に溢れたたくさんの思い出に包まれて過ごしていけたなら。
死に際して役に立たないお金をいくら持っているよりも、
それはずっと贅沢なことなのかも知れません。

「死ぬ時に富は持っていけないが、愛は持っていける。
私が今、死とともに持っていけるものは、愛に溢れた思い出だけだ。」

ジョブズ氏が遺したこの深い言葉は、そんな意味なのだと思いますし、
成功の頂点を極めた彼が言うからこそ説得力をもつ、ひとつの真理かと思います。
私はこの言葉に触れて、思わず目からコンタクトレンズが落ちました。

自分が人生の終焉を迎えんとする時、どんな言葉を残すのだろうか。
名文句を残せるとは到底思いませんし、死を目前にして大した境地に達せられるとも思えません。
でも、それを今考えてみる事は、自分がこれまで生きてきた道、
これから生きてゆく道をしっかりと見つめ直すことになるでしょう。
やっぱり、死ぬことは残念に思っても、生きてきたことに後悔を残したくありませんよね。
偉大な先達スティーブ・ジョブズ氏が悟り、私たちに指し示してくれたように、
愛に溢れた思い出をどっさり持って、ハッピーエンドで旅立ちたいものです。
とは言え、ジョブズ氏には遥か及ばずとも、もうちっとビジネスでも成功したいですな(笑)

さて、あなたは最期にどんな言葉を残しますか?


株式会社モリ・エンタープライズ
代表 森 洋一